「ふふっ……ほっ……ほほほほほほっ!!」

「あ、義姉上?」

「なかなか手の込んだ()()()()()()だわ!」

 そう言うと更に笑い出した義姉に「ああ、やっぱりマッチポンプなのか」と思うしかなかった。嘗て義姉上がされたような冤罪で嵌められた男の顛末を知っても可哀想とは思わなかった。寧ろ、前回は惚れた女に嵌められた感想を聞いてみたいくらいだ。

 それにしても清々しいほどの下種さだ。

 この目撃情報も恐らくジョヴァンニ・カストロに変装させた第三者を使った可能性が高い。大公家の子飼いだろうか。噂も近衛騎士団の中で広めさせている。そうでなければ社交界でも話題になっていた筈だ。ジョヴァンニ・カストロの行動を徹底的に調べ上げて罠に嵌めている。侯爵家にスパイでも送り込まれているんじゃないのか?そうでなければアリバイがない時に限って事件を起こすのは難しい。

「愛する家族、友人達から見捨てられたカストロ侯爵子息を裏切ることも無く救い出して見せた……これだけで彼は大公女に心酔するには充分だわ。彼はきっと素晴らしく優秀な忠犬になるでしょうね」

 僕は何も答えられなかった。嘗て王太子の忠犬だった彼を知っているからだ。

「カストロ侯爵子息が裏を知れば裏切るのでは?」

「あら?どうやって知るというの?カストロ侯爵子息の周囲は大公家の者達が囲い込んでいるのよ?彼らがそのような迂闊な真似をする訳がないわ。それに公式記録にはカストロ侯爵子息が冤罪で真犯人は自殺で処理されているのだから証拠もないわ。疑わしい点はあれど、これは私達の憶測でしかない。『もしかして』と思っている者もいるでしょうけど、相手はあの大公家よ?この事件の真相はまだ解明されていないと言う者はいないでしょうね。そんなことをすれば間違いなく大公家を敵に回す行為だわ。これを計画したのが大公女なのか、それとも大公家の別の誰かの思惑なのかは判らないけれど……下手に手を出すのは止めておきなさい。良い手ではないわね。深入りすれば火傷では済まなくなるわ」

「リスクが高いと?」

「高すぎるわね」

 確かにその通りだとしか言いようがなかった。

「危ない賭けに出るのなら私はミゲルを全力で止めるわ。次の資料を見て見なさい」

 促されるままに次に書かれた報告書を読んで行く。そしてその内容を読み進めるにつれて背筋に冷たい汗が流れ落ちて行くのを感じていた。
 僕はこの報告書を読む前に気付かなければならなかったのだ。
 神官長の息子の存在もあったと言うのに……彼もまた大公家に取り込まれていた。