『王太子の至らぬ処を補うのがブリジットの務めだ』


 嘗ての義父の言葉が蘇る。

 何が務めだ!馬鹿野郎!!公爵家の令嬢は王家の人柱じゃないぞ!!!

 思い出しただけでも腹立たしい。
 美しく血筋の良い賢い義姉。対して容姿以外にこれといって取り柄のない第一王子とでは釣り合わないだろ!!

 はぁ~~~~~~っ。

 ある日を境に義姉上は鬼気迫る勢いで勉学に社交にと精を出していた。きっと、あの王子は傀儡の王にするしか価値はないと悟っていたからだろう。自身一人に国の将来が掛かっていると理解していたからこそ自分に厳しかったし、他者に侮られないようにしていたんだ。ただでさえ信用ガタ落ちの王家だ。それでも王家と言うブランドは若い令息や令嬢にとっては甘美なものだったのだろう。ましてや、学園という狭い世界だ。なにかと忙しく動き回り他者と距離感のある公爵令嬢よりも、気さくな王子の方が人気があったのは確かだ。表面を取り繕うのが得意な王子らしいとも言える。義父を始めとする重鎮達も王子ではなく義姉に期待していたからか。それとも義姉なら王子を上手く操れるだろうと思っていたのか。今はもう分からない。


『王太子殿下の心を繋ぎ留めれないとはブリジット嬢もまだまだだな』

 何故、義姉上があのノータリンのアホを繋ぎ留める必要がある?普通、逆だろう?誰のおかげで王太子になれたと思っているんだ。

『まったくだ。男をその気にさせるのが一流の女というものじゃないか』

 それは一体何処の常識だ?義姉は王妃と言う名の女王になるんだ。愛妾になるのではないんだぞ?

「あの大臣共を縊り殺したい……」

 おっと、つい心の声が漏れてしまった。
 前を思い出したら怒りが……。義姉の死後にそれ相応の処罰を下したものの、やっぱり甘い罰だったのではないかと思ってしまう。仕事を辞めさせて四面楚歌にしただけなんて。もっと苛烈なものにしておけばよかった。ちょっと後悔が残る。
 


 義姉上と婚約する事によってぺーゼロット公爵家の後見人を得る事ができた第一王子。公爵家の後ろ盾を得ることで確固たる地位を得た王子なのだ。再び、義姉と婚約をして裏切るならば僕が引導を渡そう。
 だって、そうだろう?
 義姉を蔑ろにすることは王位継承権を捨ててもいいと言う事だ。文句を言われようが泣きつかれようが知った事か!

 今度こそ、僕は義姉上には幸せになってもらいたい。
 そのためなら悪役でもなんでもなってやる!