ジロリと睨みつけると三人は後ずさりした。心なしか震えている。
 僕は弱い者いじめをする趣味はない。
 まったく。負けると分かっているのに何故喧嘩を吹っ掛けてくるのか理解に苦しむ。思わずため息を吐くと馬鹿にされたと勘違いしたのか、太っちょの少年がこめかみに青筋を立てて怒鳴ってきた。

「な、なんだよ!妾の子の分際で偉そうに!!お前なんか非嫡出だろ!!!」

 ああ、そう言う事ね。
 確かに僕は妾の子だ。
 ただし、公爵の息子ではない。義理の息子だ。

「アホか」

「~~~~~~っ!こいつ!!」

 心の声が口に出てしまった瞬間、激昂した太っちょの少年の右拳が迫ってきた。
 短気だ。沸点が低いな。カルシウム足りてないんじゃ……? それにしても遅い。遅すぎる。こんなパンチが当たる訳ないだろ。僕が片足を半歩下げるだけで少年の拳をあっさりと回避すると自分の右手で相手の顔面を思いっきり殴りつけた。

「ぶへえ!?」

 そのまま吹き飛んだ少年は地面の上を何度もバウンドして動かなくなった。どうやら気絶しているらしい。ピクピク痙攣していたので死んでいない事を確認してから他の二人を見る。二人は腰が抜けたように座り込んでいた。

「言葉遣いには気を付けた方がいい。君たちは貴族なんだからもう少し品位を持った方が良いよ?」

 そう忠告してやった。残りの二人はガチガチと歯を鳴らし怯えまくっているから聞いてないだろうね。少年たちを無視し、傍に控えていたメイドに指示をだす。

「彼らはお帰りだ。そこに転がっている少年とその親はこの場所に相応しくない行いをした。速攻、退場願おう」

「畏まりました」

 こちらに駆け付けようとしている数名の大人。恐らく彼らの親だろう。ああ、護衛に捕まったのか。あれ?なんで泣いているんだろう?まあ良いか。さっさと帰ってくれれば問題はない。これ以上絡まれても面倒だし。

 こうして騒動は終了した。

 そして何故か僕の評価が上がった。


 義姉上は「よくやりました。それでこそ公爵家の跡取りです」と大絶賛だった。
 やっぱり、最初が肝心なんだと感じた瞬間だった。

 

 その後、僕は義姉と義母とで仲良く暮らした。
 義父?
 さぁ?
 義姉を守りも助けもしなかった男の存在など僕は気にしない。とはいえ、仕事だけは出来る男だ。宰相として王城で辣腕を振るっているはず。

 本来ならば本妻の娘で公爵家の正当な血筋の姉が婿を取って公爵家を継ぐ筈だった。なのに、僕が後を継ぐ。前と一緒だ。この後、義姉上は第一王子の婚約者に選ばれた。きっと、事前に話し合いがされていたんだ。そうでなければ、僕に公爵家の跡継ぎとしてのお鉢が回ってくるはずもない。

 義母はそんな義父の思惑に気付いているのかもしれない。
 だって、僕を「身内」枠に入れている。逆に義父は何時まで経っても「他人」といった扱いだ。前回では見えなかったものが見えてくる。