「やはり、フォード氏に任せるのが一番だろう」

「フォード氏ですか?」

「ああ、彼の実績は素晴らしい」

「確かに、フォード氏の教え子たちは素晴らしい成績で学園を入学されていますね」

「首席で卒業する子供たちの殆どが学園前にフォード氏の教えを受けている。まさに家庭教師として最高峰の人物だ」

「確か、王太子の教育係の候補に入っていた筈ですが宜しいのですか?」

「構わんだろう。幾ら実績ありの人物でも貴族出身でないフォード氏が王太子の教育係にはなれん」

「それもそうですね」

 部下が作成した家庭教師のリスト。義息子のミゲルには最高の家庭教師を準備してやらねば。半年後のパーティーはあの子が主役だ。公爵家の世継ぎとして正式にお披露目される。妻からも「貴族としての教育とマナーは必要です」と言われているからな。

「彼が適任だろう」


 まさか妻がミゲルの存在を認めるとは思わなかった。
 私の実子でない事も含めて……。

 妻の手は長く広い。
 一体どこまで把握しているのか分からない。

 ()()()()はバレていないと思いたいが……。

 いや、妻の事だ。知っていた処で気にしないだろう。公爵家に不利益が被る訳ではない。縁戚とはいえ、遠縁の伯爵家の事だ。知らぬ存ぜぬを貫くことだろう。

「それにしても驚きました。公爵夫人がミゲル様を跡取りに指名なさるとは」

「ああ、それは私も同じだ」

 別邸で隠れるように暮らしていた愛するドーニャ(恋人)に瓜二つの義息子。
 貴族のしがらみなど何一つ知らずに生きてきた子だ。一応、最低限の礼儀作法は母親であるドーニャから習っていたようだから基礎は出来ている。それでも公爵家世継ぎとなると話は違ってくる。
 いくら直系のブリジットが女児で爵位を継ぐ事ができないとはいえ、血の薄いミゲルを次代に据えるとなると他の候補者(分家たち)が煩い。そう易々と世継ぎとは認めないだろう。

「ミゲルに公爵家次期当主の自覚を促し自信を付けさせるにはフォード氏ほどの適任者はいない」

 彼の教え子の中に優秀な文官が多数いる事も評価ポイントの一つだ。
 優秀な文官を育て上げた実績は何物にも代えがたい。


「それではフォード氏に連絡をして、二週間後には公爵邸に来られるように依頼しておきましょう」

「ああ、頼んだ。詳しい話は、私からした方が良いだろう。彼は王都生まれの王都育ち。公爵領の常識を教えておいた方がいいだろう」

「畏まりました。では早速、手配いたします」

 優秀な部下はそう言って、執務室から出て行った。


 この時、私は気付かなかった。
 優秀な教え子を輩出し続けられたフォード氏。その実績の裏で何が行われていたのかは知る由もなかったのである。