「勿論、知っているわ。それがどうかして?」

「えっと……」

 僕は言い淀む。だってどう答えればいいのか分からない。

「そんなことより、貴方もうすぐ誕生日でしょう?お披露目も含めた盛大なパーティーにする予定だったのにミゲルったら倒れてしまうんですもの。今回のお披露目は延期になったわ」
 
「えぇ!?」
 
 思わず声を上げてしまった僕は慌てて口を押さえた。
 でも、無理ないよね?だって前は確かに誕生日パーティー兼お披露目会をしたんだから!それが急に変更されるってどういうことだ?

「大丈夫よ。延期といっても半年くらいの話だし。その間に準備を整えてちゃんとすれば良い話ですもの」
 
「そっかぁ……」

 ほっと胸を撫で下ろす。
 ちなみに僕は今年八歳になる。
 前回の記憶があるからなのか、自分の年齢がいまいち実感できない。いやまあ、周りから子供扱いされるのは何とも言えない気分になるのは確かなんだけどね。
 
「でも残念だわ。折角、ミゲルの晴れ姿を見られると思ったのに」
 
「別にそんなに見なくていいよ!」

 反射的に突っ込むと、クスクスと笑われた。
 あ、しまった!
 
「あらあら、生意気なこと言って困った子ね。でも安心したわ。ここに来たばかりのミゲルはおどおどしていてまるで借りてきた子猫みたいだったんだもの。本物の子猫のように威嚇は無かった分、警戒心が強すぎてどうしようかと思ったわ。もしかして誰かに良からぬことを言われたんじゃないかってお母様も心配なさっていらした程よ。いいこと、あなたは誰が何と言おうともぺーゼロット公爵子息。私の弟よ。その事を忘れてはダメよ」

 悪戯っぽく笑う義姉上の姿に昔を思い出した。
 義姉はことあるごとに「貴男はぺーゼロット公爵家の長男。跡取りである自覚を持ちなさい」と言っていた。
 今になってその意味を理解するとは思わなかった。
 でしゃばらず控えめにしていなければ追い出されるかも、という不安が尽きなかった前回。僕を飼いならそうとする親族や厳しい目で見てくる他家の者たちへの牽制の意味もあったんだろう。日陰の生まれであっても公爵家の長男である事はかわらない、という義姉の思いやりだった。


 義姉上は心配していたんだろう。
 自分達と全く似ていない僕の事を。と言うか、そもそも僕は義父の実子じゃないから似てないのも当然なんだけどね。しかも、姿形のどれもが実母にそっくりなのだ。実父に少しでも似ていればまた違っただろうに。生憎、僕の容貌は異国の人間だと一目で分かる。この国では珍しい黒髪に黒目。対して義姉は義母譲りの美貌と銀髪に紫の目を持つ美少女だ。

 義母のヴァノッツア・ぺーゼロット公爵夫人は銀髪に青い目の美女、義父のホアン・ぺーゼロット公爵は金髪に緑の目の美男。

 この家庭に黒髪の異分子が入り込んでいると思われても無理ない。