てっきり別れを告げた瞬間、光の粒となってきらきら消えていくかと思ったのに。アニメの成仏シーンの見すぎだろうか。にしても本当にあっちは行き止まりだったが。
 気になりつつも、別れを告げたからにはいそいそと教室に向かう。もうクラスのほとんどが登校していて、礼子も席に座っている。一花を見るなり礼子はにこやかに尋ねてきた。

「満足しましたか?」

 どこまで煽れば気が済むんだ。昨夜『お楽しみに』と無責任に煽ったことも謝罪してほしい。無視して席に着こうとすると。

「まぁ成仏していないということは、まだまだ満ち足りていないようですが」

 礼子と視線が合わないことに気付いた。まさか。一花が振り返ると、後ろのロッカーに当然のように敬人が座っていた。わあ、いつもそうやって座ってたんだ。……じゃなくて。

「僕、意外と欲張りだったみたいです」

 だろうな。

「何だったのかな今までの」

 一花は眉をひそめる。目を合わせないまま敬人は言う。

「何だったんでしょうね。なかったことにして下さい」

 できるか。

「というかなんでついてきてるの?」

「全然成仏できなかったので」

「だとしても振ったんだからストーカーはやめるべきだよね?」

「だって彼岸さん言ってくれたじゃないですか、これはストーカーじゃないって」

「ストーカーだよストーカーすぎて一瞬ストーカーじゃないと錯覚したけどめちゃくちゃストーカーだよ」

 つい声が大きくなった。一人で喋っているヤバい奴だと思われて周囲からちらちら見られる。穴があったら入りたい。このストーカーから逃げるという意味で。

「あらまぁ、案外上手くいきそうだったりします?」

 口に手を当てて他人事のように笑う礼子の隣に座り、教科書の準備をしながら一花は言った。

「礼子ちゃん、解毒剤ってない?」

「ないですわ」

☆つづく☆