その日の夜、一花はベッドに仰向けになって、乱れた思考を整えていた。礼子はあまり話が通じないからこれ以上相談しても無駄だ。自分でどうにかしなければ。
 もう一度、小羽敬人という人間について考えてみる。
 確かいつも一人で、休み時間も本を読んでいて、誰も友達らしき人がいなかった気がする。真っ直ぐでサラサラな青い髪に、細い黒縁の眼鏡で、真面目で大人しそうな雰囲気だった。だが授業中指名された時に簡単な問題を間違えまくっていたり、体育では四段の飛び箱で頭から引っくり返っていたので、勉強も運動も得意ではなさそうだった。
 それでも決してサボることはなかった。日直や掃除や、合唱コンクールや運動会などの行事にもちゃんと取り組んでいた。
 何より挨拶を欠かさない。人にぶつかればすぐに「すみません」と謝るし、プリントを集める時は「お願いします」、給食を渡す時まで「ありがとうございます」と言う。
 ──こう考えると、ただのクラスメイトでも案外様子を見ていたことに気付く。半年も同じ教室で過ごせば自然と目に入るものらしい。
 クラスメイトの中では、どちらかというと好印象を抱いていたように思う。今も、悪い意味でストーカーするはずがない、何かどうしようもない事情があってのことに違いない、と心のどこかで思ってしまっている。安直すぎるだろうか。
 どちらにせよ、担任から訃報を知らされた時は悲しかった。というより信じられなかった。たとえ赤の他人でも、人の死というのは受け入れがたいものだ。
 実は今もあまり信じていないかもしれない。だから逆に幽霊の話を信じようとしているのだろう。何せ幽霊は、まだ死んでいないようなものだから。
 どうせいるなら、話を聞きたい。
 ベッドの脇に置いていたティッシュの包みを開き、例の薬を一粒摘む。礼子によると、効果は一錠で一日らしい。つまり今飲めば明日の夜まで続く。明日の日中、敬人に会える。
 覚悟を決めて口に放り込み、水筒の水で流し込んだ。もし不調を来したら絶交だ。
 するとタイミング良く礼子からLIMEが来た。

『答えは決まりましたか?』

 夜だというのにしつこい。

『一応飲んでみたよ』

 隠してもしょうがないので正直に返すと、なぜか『感謝感激飴あられ』と蛙が飴を散らしている謎のスタンプが送られてきた。そして続く意味深な文。

『準備が整ったようですわね』

 準備とは。

『薬を飲んだことは私が敬人さんにLIMEで伝えておきますので。では明日、どうぞお楽しみに』

 不安しかない。

『LIME交換してたの?なら全部LIMEで済んだんじゃ?わざわざ薬飲む必要なかったんじゃ?』

 至極当然の質問をしたが、既読無視された。その晩は目が冴えて眠れなかった。