「住所は伝えてあるからわかると思うけど、迷子になってたら迎えに行ってあげてね」

「うん、わかってるよちゃんと行くから」

私の1つ下の、いつも私のあとをついていた真白が…

「真白が着いたら教えてね!」

「うん、連絡する」

「真白のコップとか歯ブラシとか買ってあるから出してあげてね」

「うん」

「あ、真白が枕変わって眠れないって言ったらっ」

「もういいよ、新幹線遅れるよ!」

左腕にしていた時計を見てハッとした顔をする、これはたぶん結構ギリギリな感じだ。いつもこんな感じだけど、今日はきっといつになくギリって感じね。

「いってきます!」

「いってらっしゃい」

「瑠璃、真白と仲良くしてね!」

「うん、大丈夫だからいってらっちゃい!」

大きなキャリーケースをゴロゴロ引きながらやっと玄関から出て行った。ガンッって角を思いっきりドアにぶつけてたけど。

「心配性なんだから、お母さんは」

あんな感じで会社ではバリバリ働いてるって全然イメージ付かないなぁ、日曜の朝から出張に行くんだもん大きな仕事任されてるんだなぁとは思うけど。まだ寝巻姿で髪の毛ボサボサの私よりはたぶん、しっかりしてるね。

「瑠璃!」

「まだ何かあるの!?」

閉まったと思ったドアがもう一度開いた。これだけ言っといてまだ何があるの…

「朝ご飯用意してあるから食べてね!作り置きも冷凍庫と冷蔵庫に入ってあるからね!」

確実に私よりはしっかりしてる、というかどんな時も私のことを忘れない。

「じゃあ今度こそいってきます!」

ガタガタガタッと何度もキャリーケースをぶつけながら慌しく出て行った。

「お母さんっ」

「何!?何か心配事…っ」

だから閉まり切る前にドアを開けて後ろ姿に叫んだ。

「気を付けてね!」

パーにした右手を口元に添えて、駆けて行くお母さんに向けて。

「いってらっちゃい!」

「はいっ、いってきます!」

ぶんぶんと手を振った。

今日から1ヶ月お母さんはいないけど…
1人じゃないしね、今日は1人じゃないから。