「そーいえば兄ちゃんがさ、クラス替えは3年の時だけって言ってたよ!」


人気のない校舎の階段に、カンナの陽気な声が響く。


「えっ、じゃあ」

「そう! 修学旅行とかも一緒だよ!」


各学年9クラスあるなかで、私とカンナは同じ1年2組だった。この話が本当なら、高校生活は出だし上々。こんなに嬉しいことはない。


……本当の話なら。


「カンナ、からかわれてないよね?」


同高の3年に知人がいるのは何かと心強い。でもそれがカンナの兄、成弥(ナルミ)くんなら話は少し変わってくる。


イケメンな先輩っている?と訊けば、『俺以上にモテる生徒なんていない』と返し、さっき家に来てたのは彼女?と訊けば、『俺の師匠』と返す。とにかく、一筋縄ではいかないタイプの人だ。


「ないない! それにほら、イケメン先生も挨拶のとき言ってたじゃん。『2年間(●●●)担任します』って!」


確かに、と頷きながら教室のドアに手を掛ける。が、開かない。


「カンナよかったね、確実に1ば――」


1番乗りだよ、と言いかけた口を閉じる。カンナのすぐ後ろ――声が届くであろう距離に、いつの間にか例のイケメン先生がいた。


「おはようございます、早いですね」

「おはよーございまーす。先生こそ早くないですかー?」

「今日はプリントが多いので、皆が来る前に多少配っておこうと思いまして」


2人の会話に紛れ、私も小さく挨拶を返す。


カンナの『イケメン先生』と呼ぶ声が聞こえていたはずなのに、素知らぬ顔で鍵を開ける先生の態度。さて、どう解釈するか。