「先生こそ。私からの信頼はゼロになったと思ってください」

「よく言うわ。そもそも信用してなかったくせに」


ごもっとも過ぎて、返す言葉もない……。


私は端から一糸先生を信じていないし、それは正体が判明したところで覆らない。なのに私はこの人の車に乗っていて、あらぬ方向に話が逸れた挙げ句、取り繕う余地がないほどに見透かされている。


――――もう、ほんとにサイアク。


「お前震えてない? もう着くけど暖房入れる?」

「えっ、あっ、いえ。大丈夫です」

「あっそ」


気の抜けた言葉尻に合わせて先生の腕がスッと伸び、時期外れのエアコンが唸り出す。私は、不覚にも絆されそうになった感情を正すために、窓の外へと視線を移した。


最初は缶コーヒーとハンカチ。次はのど飴で、今回はタオル。


街灯に反射して光る雨粒を眺めながら、頭に浮かんだモノを一つずつ掻き消す。


先生の『もう着くけど』という言葉通り、キラキラと流れていた景色は5分もせずに止まった。


「お前もとりあえず中入れ」


先生に続いて車を降り、横付けされた建物を眺める。アトリエと言うからオシャレな工房を想像していたが、実際は無骨というか無機質というか、ただのコンクリート造りの平屋だった。


促されるまま廊下の1番奥の部屋へと入ると、先生は収納棚から黒のロングTシャツとバスタオルを手渡して出ていった。

言うまでもなくここは洗面室なわけで、要するに、着替えろってこと?


「はぁ……」


腑に落ちない状況にため息を吐きつつ、ブレザーを脱ぐ。が、「開けるぞー」という声と同時に、視界の隅にあったドアが開いた。