「……先生は気づいてたんですか? 私のこと」

「ああ。『フユ』って呼び名しか知らなかったし、確信はなかったけど」


分かってしまえば、全てが一変する。口調も横顔も、無言のうちに流れる空気も。


「態度、学校とはだいぶ違いますね」

「まぁ商業用って感じ。――僕は、環境に応じて変化できますからね」


先生の口元が緩やかに弧を描くと、一拍の間でモッさんと一糸先生が切り替わる。

2人きりの空間は宿泊研修での一件以来だが、あの時よりも気まずい。


「そういえば、先生は『とあちゃん』って呼ばれてましたよね?」

「いとあ(●●)ずま、だしな」

「……いいですね」

「え、なにが?」


先生の言葉を、自分の中でも復唱する。いくら話題を途切れさせたくないとはいえ、私は何を言っているのか。


「あー、えっと。私あだ名とかないから、そういうの羨ましいなぁって」

「付けようと思えばいくらでもあるだろ。椎名の『しいちゃん』とか、芙由の『ふうちゃん』とか」

「どっちも他にいました」


真っ直ぐ正面を向いていた顔が、ちらりとこちらを見る。


「どうしてもって言うなら、『ふぅ』って呼んでやろうか」


予期せぬ発言にギョッとして、口から何かが出そうになった。

その切り返しはなに? からかわれてる? 先生の目的がわからない。


「……別にいいです。そういうキャラでもないですから」


あだ名を羨ましいと思っていたのは事実。でも求めてはいないし、この人にあだ名で呼ばれるなんて、全っ然嬉しくない。


「お前さ、ほんと可愛くないよな」


翻弄されてたまるか。