「――スマホッ!」

「スマホ?」

「机にスマホ、入れっぱなしでっ」

「ああ。教室はさっき施錠したので、職員室に鍵を取りに行ってください」


一糸先生が淡々と言ってのけるので、返事の代わりに深呼吸を挟み、私はまたしても校舎の中を走り出した。


管理棟2階にある職員室を経由して4階の教室まで往復したので、それなりの時間がかかったと思う。にもかかわらず、肌寒さに肩をすくめながら靴箱へ戻ると、なぜか一糸先生がまだそこに居た。しかも、頭からタオルを被って。


「椎名さん、これ使ってください」


そう言って差し出されたのは、綺麗に折り畳まれた白いフェイスタオルだった。先生自身も、同じようなタオルで頭をワシャワシャと拭いている。


「あ、え? わざわざ?」

「車に乗せていたのを取って来ただけですよ」


この人は、やっぱり掴めない。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


お礼を絞り出してからタオルを開くと、ふわり、と爽やかな香りが鼻をかすめた。


――――あれ?


咄嗟に先生へ視線を移し、息を呑む。そこにいたのは、濡れたジャケットを脱ごうとしている一糸先生――ではなく、見覚えがある身なりの男性だった。


――――え? あ、あれ?


「椎名さん。ちゃんと拭かないと本当に風邪ひきますよ」


スラリと伸びた長い手足に、無造作にも程があるモサモサ頭。そして、この香り。


「モッさん!」

「え?」