「あっ、春先生! おつかれー」

「お疲れ様です。よかった、2人共いましたね」


ついでに。今日も今日とて、昼休みになると一糸先生は旧校舎の屋上へ現れる。


「今日の6限枠でリレーの練習をするらしいですよ」

「マジ? 確定?」

「はい。さきほど、榎本さんのお兄さんがお願いに来られました」


なんとも複雑だ。


高校生活初日の“偶然の遭遇”以降も先生はここでタバコを吸っているし、カンナは完全に懐いてしまったし。まるで宿泊研修での一件がなかったかのような日々は、平穏だけど複雑。


「春先生も練習に出るんだよね?」

「はい。できることなら、日陰から皆さんを応援してたいですけどね」

「……その練習って強制、ですか?」

「そうですね。逃げ道はありません」


カンナと私の質問に隙なく応えた先生は、ジャケットの内ポケットから出したタバコに火を点けた。


吐き出された煙を無意識のうちに追った先――淀んだ灰色の空を見て、『雨よ降れ』と心で唱える。


宿泊研修を終えた私達を待ち構えていたのは、ビッグイベントの一つである体育祭だった。学校行事に対する基本スタンスは“楽しむ”だし、体育祭もまあまあ好き。だが、今回ばかりは例外。


「ねぇカンナ、私達って間違いなく成弥くんに騙されたよね」


不満たっぷりに呟くと、カフェラテのストローを咥えたままカンナが視線を逸らす。


「……ナンモイエネェ」

「何の話ですか?」

「ウチの兄ちゃんがね、体力測定の50メートル走で勝った方に1000円やるって」

「…………。ああ、なるほど」