さっさと諦めて。そう思う一方で、ずっと気になっている事がある。


今回みたいな問題行動が発覚した場合、通常は学年主任や生徒指導の先生が出てくるはず。さっきの一糸先生の言葉を信じるのは癪だが、この人は本当に、2人の間だけで話を終わらせるつもりだろうか。


「誰を庇ってるんですか? 榎本さん? それとも他の誰か?」


先生は膝からほど近い位置に肘を掛け、私の返事を待つかのように、ただじっとこちらを見る。前のめりになった姿勢は揺らぐことがなく、両足を架けるように組まれた長い指が解かれることもない。


そして先生は、またため息を吐く。今度は大きくて、深い。


「もういいです。本当の事を話してくれないのは、僕がまだ信用に値しない人間という事でしょうから。でも一つだけ言っておきます。椎名さんが出した答えは、本当に正しいと思いますか?」


正解も不正解もない。どちらか選べと言われたら、カンナが濡れ衣を着せられる前に回避できたのだから、正解だろう。


「後々になって正直に話したところで、ただの後付けだと思われて誰も味方してくれませんよ」


そもそも先生なんて、都合が良いときにしか味方になってくれないくせに。


「何か心に引っかかる事があるなら、その時に言葉にしておく方が自分のためです。じゃないと、どんどん窮屈になっていきますよ」


いまさらだ。私は学生という身分だけで、十分に窮屈さを感じている。


「……終わりですか? 私、部屋に戻りますけど」

「はいどうぞ。タバコは僕から返しておきます。沢村先生のものですよね?」

「そうだと思います」


私が口にした唯一の事実に、先生はニッコリと微笑み返す。同時に私の中では、危険信号が灯った。


――この人はたぶん、曲者(くせもの)