「夜、ロビーで待ってます。皆さんが寝たのを確認してからでいいです。持ってきて貰えますか」

「はい」


部屋に戻ると3人組が何やらヒソヒソと喋っていたが、私は構わずトートバッグを拾い上げ、カンナをお風呂へ誘った。もう、どうでもいい。




――深夜0時過ぎ。


昼間の登山が嘘だったかのように、眠気は全く感じない。


「このまま朝まで粘りますか?」


誰の寝息も届かないロビーで向かい合ってから、既に10分は経っただろうか。


「椎名さん、なにか話して貰わないと。僕を困らせたいだけですか? それとも、2人きりの時間をわざと長引かせてます?」


一定のスパンで何度も疑問符を投げかけられ、テーブルのタバコから視線を上げる。目が合った先生は、ゆっくりと瞼を伏せつつ、小さくため息を零した。


「すみません、今のは冗談です」

「…………」

「どうして事情を説明してくれないんですか? 僕としては、ここだけで事態を収拾させたいんですけどね」


戻ってきた真摯な視線を受け止めながら、同じく凛とした態度で返す。


「説明も何も、これは私のです」

「そればっかりですね。正直に言ってくれないと困ります。こんな問題を起こしたところで、進学就職の邪魔にしかなりませんよ?」


でたよ。大人の切り札、『未来』について。


もう聞き飽きた。その話題は、お腹いっぱい。自分がやりたい事も、何が向いているかもわからないのに、その先の話を持ち出されても何の現実味もない。


「事実しか言ってませんし、他に言う事もありません」