「ウチはいつでもいいよー」

「んじゃ、とりあえず混んでないか見てくるね。ちゃんと準備しといてよ」

「ガッテン!」


カンナに念を押して歩き出した直後、部屋のドアが開いた。

湿ったままの髪と大判タオルがよく似合う、底意地の悪そうな顔が3つ並ぶ。


和気あいあいと現れた彼女達を素通りした私は、ドアを閉めてから歩みを早めた。


――――大丈夫。


中庭に誰も居ないことが確認できたら、すぐに部屋へ戻ってカンナとお風呂へ向かう。それから、忘れ物をしたとでも言ってアレを置きに行けばいい。


中庭へのドアは脱衣所の方が近いし、サブバッグを持って出れば、手ぶらでうろつくよりは怪しまれない。


沢村先生もあの場所でタバコを吸っていたのだから、ベンチの下に落ちていても(●●●●●●)不自然じゃない。


問題は、“喫煙スペースに人が居ないか”だけ。


目的地との距離が縮まるにつれ、踏み出す一歩が早くなる。

たぶん、この廊下を左に行けばベンチが見えるはず。――そう思いながら最後の角を勢いよく曲がった瞬間、死角にいた人と真正面からぶつかってしまった。


「あっ、すみません!」

「いえこちらこそ」


――――ん?


耳馴染みのある声に慌てて顔を上げると、非の打ち所のない整った顔がこちらを見返していた。


やっぱりまたこの人だ。なぜ、一糸先生はいつもいきなり現れるのだろうか。それもタイミングが悪いときばかり。


「あ! 椎名さん、丁度良かったです。ちょっとお訊きしたい事があるんですが」


――――こっちは丁度良くないんだけど?