「頼まれれば誰だってやると思いますけど」

「でもほら、実際に動いてくれてるのは椎名さんだけです」

「一人で事足りますから」


淡々と返事をしながら、徐々にスムーズに動くようになってきたお玉で、カレーに円を描き続ける。


「フッ、そうですね。ありがとうございます」


取って付けたようなお礼なんて要らない。

私はただ、誰もが面倒くさがることでも、グチ一つ零さずに笑顔で請け負うほうがカッコイイと思っているだけ。自分のイメージを保つために、“こうありたい”を実践しているにすぎない。


……まあ、こんなことを正直に打ち明けたところで、私の理想を地でいくこの人には理解できないだろう。


持ってきたボウルと一緒に、放置されていた調理用具まで洗い始めるとか。面倒なことを率先してやっているのはどっちだ。


「…………」

「…………」


黙々と洗い物を続ける先生を横目に、早くあっちへ行け、と念じながらカレーを混ぜる。その思いが通じたのか、何度目かの念を飛ばした時、一糸先生の背後に沢村先生が立った。


何やら耳打ちされた一糸先生が手を止め、ジャージのポケットからタバコを出す。と、その瞬間、運悪く一糸先生と目が合ってしまった。


「……沢村先生、タバコ貰いに来たんですか?」


沢村先生が遠ざかったのを確認してから、チラリと一糸先生を見る。


椎名芙由(●●●●)にとって、場しのぎの会話はお手のもの。それが苦手な相手だったとしても、問題ない。


「ええ。自分のが行方不明らしいです」

「そんなに良いですかね、タバコって」

「良し悪しはわかりませんが、嫌いだったら吸ってませんよ」