沢村先生が顔を綻ばせる。どうやら、この一瞬で30年近くの時間を遡ったらしい。


「もしかしたら、今回の経験を活かせる時が来るかもしれないしな」


諭すような口ぶりからして、沢村先生はたぶん気づいていないのだろう。こっちは聞きたくもないワードが飛び交うせいで、既に辟易しているというのに。


この人もまた、私達の“いま”を、不透明な未来へ勝手に結びつける大人の一人だ。


――――胸クソ悪い。


洗い場へ帰ってくると、沢村先生の指示に従い、各クラスにピーラーを配る。

ついでに裏ボスの姿も一緒に探してみるが、あの艷やかな黒髪を見つけるよりも先に、箱の中身が空っぽになってしまった。


裏ボスが桜井先生と談笑しながら戻って来たのは、ジャガイモの処理を再開して程なくしてからのこと。あの3人組が揃い踏みなのは……仲が良いから、ということにしておく。


「ピーラーあったのね」

「うん」


裏ボスと会話らしい会話をしたのはこれが最後。


――そして、予定時刻より少し遅れて夕食が始まった。




キャンプファイヤーのやぐらはないが、心地良い風と広い夕焼け空、手作り料理があれば気分は自然とアガっていく。誰が言い出したのか、レクリエーション的なノリで、各クラスの“カレー食べ比べ審査会”も立ち上げられた。


絶えず笑い声が続くなか、審査会メンバーからの要望に応え、冷めてしまったカレーを再度火にかける。


「ちょっと意外です。椎名さんは面倒な事も率先してやるタイプなんですね」


そう声をかけてきたのは、空のサラダ用ボウルを洗い場へと引いてきた一糸先生だった。