私の耳打ちに、キノハラさんも声を潜める。嬉しそうに緩んだ横顔には悪意がなく、純粋に可愛いと思えた。


「みんな、後ろ詰まってきてるよ! ペースあげよう!」


周囲を鼓舞しながら、キノハラさんが早足で進み出す。

駆け寄っていった裏ボス達は、揃って怪訝な表情をしていた。


満面の笑みで手を振るキノハラさんに同じ仕草で応えると、3人の背中がみるみる小さくなっていく。


ほぼ思惑通り、だがスッキリしない。数秒間のヒソヒソ話のあとに振り返った裏ボスは、厚い唇こそ引き伸ばされてはいたが、その目は笑っていないように見えた。


「今のは何ですか?」

「へ?」


すぐ耳元で聞こえた声に、反射的に視線を横へ向ける。そこには、瞳の中まで覗けそうな距離に先生の顔があり、びくっと後ろへたじろいでしまった。


……不覚。


「さっき何を話してたんですか?」


私の反応は意に介さずといった態度で、先生は屈めた姿勢を戻しながら質問を被せてくる。


これが大人の余裕というものだろうか。私だけ過剰に反応してバカみたいだ。

おまけに、この人と並ぶと身長差がありすぎて、見下(みくだ)されているようで余計に居心地が悪い。


「秘密です」


動揺する心臓を落ち着かせ、そのことを先生にも気づかれないように、静かな笑顔で応戦する。


「…………」

「…………」

「ちょっと! ウチの存在はシカトですかー」