「よかったと思う?」

「え、なにが?」

「あの2人と仲良くなったこと」


未だ消化不良なままの疑問を吐き出すと、カンナは数秒黙り、にやりと口の端を吊り上げた。


「いいんじゃん? あの子らに遠慮する意味ないし。それに、何かあっても芙由がズバッとヤッちゃうでしょ」

「……どうだろうね」


背を曲げてこちらを覗き込むカンナが“悪戯っ子”だとしたら、私は“詐欺師”に匹敵するのかもしれない。曖昧な言葉を口にしながらも、絶対的な自信持って微笑めるのだから。


「榎本さん、椎名さん」


2人の会話が途切れると、タイミングを図ったかのように、また背後から名前を呼ばれた。


出会ってからまだ数日しか経っていないのに、既に聞き慣れてしまった低音ボイス。だが、今日はなんだか人気者だな、なんて呑気な嫌味を思い浮かべられたのは、振り返るまでのほんの一瞬だった。


「おはよう、椎名さん、カンナちゃん」


――――でた。

噂をすれば何とやら、ってやつ。


「おはようございます。ここがクラスの最後尾ですよ、頑張ってください」


例の3人組に囲まれた黒ジャージ姿の一糸先生が、いつもの穏やかな微笑を向けてくる。でも今の私には、この人に構っている暇はない。


適度に愛想よく挨拶を返すと、饒舌なカンナの陰で、私はそれとなくキノハラさんとの距離を詰めた。


「さっき南くん達が通ったよ。もう会った?」

「いま?」

「そう。たぶん、まだ追いつけると思う」