緑の非常灯があるということは、中庭へ続くドアもあるのだろうけど――。


何度目かわからないため息を吐き、渋々従う。こうなったら、大人しく説教を受けるしかない。


私が中庭へ出ると、先生は灰皿を経由したのちに、一度広がった2人の距離をゆっくりと埋めていく。


「昼間休んだせいで眠れませんか?」

「……そうですね」

「体調は?」

「大丈夫です」


予想とは違う、穏やかな低音ボイス。相変わらずこの人は掴めない。


「それが訊きたくて呼んだんですか?」

「あ、すみません。タバコに火を点けたばっかりだったので。あと、これ」


そう言って差し出されたのは、【のど飴レモン味】とプリントされた1粒のキャンディだった。

私はこれに対して、どう反応すれば良いのだろう……。


「それ桜井先生に貰ったんですけど、椎名さん体調崩してたし、よければどうぞ」

「はぁ」

「というか、ハッカ系に味が付いてるの、実は苦手なんですよね」


気まずさを誤魔化すように笑った先生は、顔を背け、タバコを口へと運ぶ。


「私も好きではないです」

「え、じゃあチョコミントは?」


それは、真剣な眼差しでする質問だろうか。


「……基本苦手です」


先生は一緒ですね、と微笑むが、この人が何をしたいのか全くわからない。懐かない生徒の好感度アップが目的? それとも本当に、生徒思いの先生なのか。


「そういえば桜井先生は?」

「…………。もしかして、ロビーでの会話聞いてました?」