「ねぇ、椎名さんは?」

「え?」


聞き手に徹していた私を名指ししたのは、カンナの向かいに座っていた子だった。


艷やかな黒髪ロングヘアに、同じく黒々とした睫毛と瞳。カンナの美しさを“洋”とするなら、彼女は“和”だ。

たぶんこの子も、自分の容姿に相当の自信を持っているタイプだろう。


「椎名さんの気になる人、南くん?桐谷くん? それとも春先生?」


箸を手放した和風美人が頬杖をつくと、他の2人は瞬時に押し静まった。


んー。どうやら私の読みはハズレで、こっちが本当のボスらしい。……というか、裏ボス?


「私もイケメンの彼氏は欲しいけど、あんま話してないし、よくわかんないかな」


こんなときは当たり障りない返答で濁す。無意味に敵視されるのだけは避けたい。


「ハハッ! だよね、仲良くならなきゃ分かんないよねッ」


キノハラさんの軽い相槌が入り、カンナがテーブルの下で私の足を小突く。言いたいことは分かるよ、と小突き返した時、意図せず裏ボスと視線がぶつかった。


彼女は何も言わず、ぽってりとした唇に笑みを浮かべるだけ。


……なんだろう。虫が好かない。




夕食後の自由時間で分かったことだが、宿泊棟は各クラス男女2部屋ずつに分かれており、私とカンナは裏ボス達と一緒だった。しかし、彼女達は消灯間際まで部屋へ戻らず、暗がりでのお喋りも直接は絡んでいない。


寝息の合唱がはじまって程なくして、つま先立ちでそっと部屋を出る。

消灯後の徘徊は禁止でも、お手洗いなら許されるだろう。


「春先生、巡回終わりました?」

「あ、桜井(サクライ)先生。お疲れさまです」