カンナの手元にある半紙の、生き生きとした【色男】の文字に関しても同じ。誰のことか想像できる以上、あえて追求はしない。


「芙由、機嫌なおったみたいだね」


私が半紙に書いた【飯】を見て、カンナが笑う。


この唐突な、飛び石のような会話もそうだ。改めて訊かなくても分かる。聞かなくても、なんとなく伝わる。――たぶん、お互いにそんな感覚を持っている。



夕食の時間になり、食堂の入り口で例の女子3人組と鉢合わせてしまった瞬間も、その“なんとなく”が発動した。


「椎名さん、カンナちゃん! また一緒に食べない?」

「いーよー。席空いて……あっ、南くん達は誘ってないし、5つでいいのか!」


カンナから伝わってくる冷ややかな温度に、頬が上がらないよう唇を引き結ぶ。嫌味まで披露するなんて珍しいので、気を抜いたら笑いが漏れかねない。


「2人ってさ、もしかして、南くんか桐谷くんを狙ってんの?」


5人揃って腰を下ろすと、私の正面に座った子が真っ先に口を開いた。


ああ、そういう事か。

いきなりの牽制には驚いたが、おかげで分かった。ミディアムボブを上品なダークカラーに染めているこの子が、3人組のボスだ。


「ないない。ウチも芙由も、もっと上を狙うからね」

「上って? もしかして一糸先生?」

「それはアリ! 春先生カッコいいよねー」


ダークカラーのボブヘア……ボブ美、暗子、キノコ・ハラグロ。……キノハラさん?


「一糸先生は無理だよぉ。子どもの相手なんてしないって」

「でもさ、先生と生徒って憧れるじゃん!」


私がボスのあだ名を考えている間に、カンナの声が弾んでいく。

まぁ、これでこそカンナだ。