「……親切だね」

「うん、カッコいい! 春先生の授業休むとか、芙由は勿体ないことしたねー」


カンナの足取りを見るに、どうやら美術の授業は相当楽しかったらしい。それを裏付けるように、次の書道体験が始まっても、ヒソヒソ声での報告が延々続いた。


私は惜しいことをしたのか。それとも、下手に感化されなくてよかった、と安心するべきか。

自分でもよくわからない感情を混ぜ合わせて、墨を摩る。


「てかさ、ゴメンね。話を上手く逸らせなくて」

「え?」

「ほら……芙由って自分のことはあんま話さないけどさ、でも元彼の話って楽しくはないじゃん?」


真剣な口ぶりでそう言ったカンナは、筆をプルプルと震わせながら、真っ白なままの半紙と睨み合っていた。


「最初にバスケの話を出したの、あの子達じゃん」

「ん……うん。でもさ、なんて、ゆーかさ……よしっ、できた!」


カンナが満足気に筆を置くのを見届けてから、今度は私が筆を走らせる。


「あの子らってさ、南くん達のこと狙ってるっぽいよね」

「あ、……カンナも気づいた?」

「だって芙由がいなくなってからも、ずーっと2人を質問攻めだよ? 南くんのアイコンタクト的には、ウンザリって感じだった」


面白いくらいに、その時の光景が目に浮かぶ。


「ウンザリじゃなくて、助けてかもよ?」


筆を硯の横へ置きながら返事をすると、カンナの大きな瞳が縦に開かれた。


「えぇー。それは言ってくんなきゃ助けらんないよー」


肩を落として嘆くカンナは、一体どうやって助けるつもりだったのか……?

気にはなるけど、ここは黙って流す。カンナは心の赴くままに動くタイプなので、からかい続けても面倒くさくなるのがオチだろう。