カンナのおかげで会話はスムーズに流れているのに、心が淀んでいく。


コート上の楓は輝いていた。余裕綽々で笑っているかと思えば、気迫に満ちた指示を出し、フリースローを打つ前はフッと表情を消す。その頼もしさの裏にあった先輩との亀裂も、重責への葛藤も、周りには悟らせないようにしていた。


楓の努力が評価されるのは嬉しい。でも今は、どうしても虚しさが勝ってしまう。

まるで、大切な思い出が黒く塗り潰されていくみたいだ。


麦茶を飲んで誤魔化してみても、気を抜いたら涙が溢れそうで、怖い。



――――えっ?


賑やかな会話がただの喧騒に変わっていくなかで、ふいにジャージの裾をクイっと引っ張られた。


太腿に触れる“何か”に、さり気なく視線を落とす。そこにあったカンナの手は、憩いの場所探しへ出発した時と同じく、親指を立てたGOサインだった。


「ゴメン、なんか食欲ないから先戻るね」

「え、椎名さん大丈夫?」

「うん。ゴメンね」


トレーを手に立ち上がると、こちらを見上げたカンナが優しい表情で微笑む。


「芙由、イケメンだらけのクラスになったからダイエット?」


わざとらしく茶化すカンナを腰で軽く小突き、私はそのまま席を離れた。


GOサインに対する解釈が正しかったのかはわからない。分からないけど、心強かった。


昨日までの『ハギワラ』発言はさておき、カンナはカンナなりに気を遣ってくれたのだろう。楓との出来事は未だにはぐらかしたままだが、それでもやっぱり、カンナは特別な存在だ。


……だからこそ、その優しさに触れると、嘘をついていることが後ろめたい。