「あ……あのっ!」


焼き鳥屋の引き戸へ手を伸ばしていたモッさんに頭を下げる。


「八つ当たりして、すみませんでした」


大人なんて好きじゃない。モッさんが『くだらねぇ』と嘲ったことも許してない。でも私は、“ガキっぽい椎名(シイナ)芙由(フユ)”はもっとキライ。


「……ひとつだけ」


低い声に顔を上げると、モッさんが振り返っていた。


ドキリと心臓が跳ねる。トキメキとかじゃなく、緊張感という意味で。

モッさんのメガネには前髪が被っているのに、なぜかその視線は、しっかりと私の目を捉えているような気がした。


「ギャンギャン喚き散らしたことを恥じてんだろうけど、こっちからしてみれば年相応ってやつだから。……背伸びは良いけど無理すんな」


温かな光が漏れる店内へと人影が消えるのを待ち、ぼそりと呟く。


「……年相応がイヤなんだっつーの」


まだ夜風の冷たさを感じる瞼へハンカチをあてがうと、どういうわけか、よく知っている(●●●●●●●)香水と同じ匂いがした――。




「ただいまー」


玄関からリビングへ声をかけながら、ブーツにシューキーパーを押し込み、真っ直ぐ自分の部屋へと向かう。


階段を数段登ったところで、背後でドアが開く音がした。


「芙由ぅ、お風呂はー?」

「あとでいい」

「じゃあお土産!」

「あるわけないじゃん、ただの卒業パーティーだよ?」