眼の前から消えた笑顔を取り戻すために、あっけらかんと笑う。


「私も高校始まったら新しい彼氏見つけるよ、同じ高校のイケメン!」


念押しに強気に微笑むと、ようやく楓の顔もわずかに綻んだ。


「……うん。じゃあ、気をつけて帰れよ」

「あ、楓ッ……バスケ、頑張ってね」

「それ何回目だよ」


呆れたように笑った楓が去っていく後ろ姿を、しっかりと見届ける。

もしかしたら振り返るかもしれないから、まだ気を抜いちゃダメだ。弱そうな姿は見せない。そんな姿は“私”らしくない。



店の扉が完全に閉まると、糸が切れたようにうずくまる。


別れたいと言ったのは私。決めたのは私。なのに、涙が止まらない。


「……ふっ……うぅっ」


私達が恋人でいたのは1年足らずだった。そして、同じくらいの時間を楓に片想いしていた。でも知り合ってから数えると9年近くが経ち、思い出はとめどなく溢れてくる。


卒業式だってジーンとくるものはあったけど、泣きはしなかった。瞳を赤くしながら泣きじゃくるカンナを見ても、永遠の別れではあるまいし、とどこか一歩引いた場所に自分は立っていた。


大丈夫、客観的に見ればいい。もう納得してる、割り切れてる。


――――泣き止め。泣き止め。


「おい、邪魔。いい加減どけ」


必死に自分へ言い聞かせている最中、いきなり飛び込んできた暴言に、反射的に顔を上げる。


「店の真ん前でしゃがみ込むなよ」