――楓に身長を追い抜かれたのは、小学5年になってからだった。


徐々に離れていく澄んだ瞳は、楓がバスケを頑張っている証。それは友人として過ごす日々では憎たらしく、同じくらい誇らしかった。そして異性として見上げると恥ずかしくなり、付き合ってからは嬉しくて、見上げるのが好きだった。


ずっとずっと、楓にはバスケ馬鹿でいて欲しい。


「……芙由、ごめん。なんか噂になっちゃってて」


唐突な謝罪でも、微塵も笑っていないその目を見れば、本気で気遣ってくれているのが分かる。どうやら、本題はこっちらしい。


「やっぱ気まずい、よな? 別れたこと色々訊かれたろ?」

「……まさかこのタイミングでバレるとはね」


冗談ぽく笑うことしかできないが、むしろ楓には感謝している。今日まで質問攻めにあわなかったのは、別れてからも違和感なく接してくれていた楓のおかげだ。


「ていうか私こそゴメンね、噂のこと知らなくて。隣に座ってるの、やっぱ変だったかな?」

「へーき。せめて友達でいたかったのは、俺のわがままだから」


楓のはワガママじゃないでしょ。

楓は何も悪くないよ。


――そんなフォローをしたら、未練がましくなる気がした。


納得いかない顔をしながらも、別れたいという私に頷いてくれたこと。この1ヵ月、どこか不自然なくらいに、“友達だった頃”を再現してくれていたこと。それは全て、楓の優しさだ。


いまならわかる。私達はちゃんと、お互いに好きだった。でもそれ以上にお互いが大事で、だから別れを選べた。



じっとこちらを見据えてくる楓から視線を逸らさず、背筋を伸ばし、自分の中に一本の軸を通す。


「楓はモテるんだから、早く次にいっちゃいなよ!」