……他人をどうこう言うなら、まずは鏡を見て。話はそれからでしょ、モサイおじさ…………モッさん?


「懐かしいなぁ。とあちゃんが初めて来たのは高校生の時だっけか?」 

「いや、昔話はやめて」


盛り上がりつつある2人を傍目に、ナイスなネーミングを心の内で笑いながらまた歩き出す。


良くも悪くも、モッさんの登場はいい気晴らしになった。

ほんの一瞬だけ、だけど。


男女一つずつしかないお手洗いを待っている間、声をかけてくるクラスメイトは、口々に『楓』を連呼した。


――楓くんと高校別でしょ? 寂しいね。

――楓くんと別れたってホント?

――楓、さっき女子と出ていったぞ?


笑って受け流すたびに現実味を帯びてくる。私と楓は、もう別れたんだ――。




お手洗いから戻ると、カウンターにはわずかに残ったビールジョッキがあるだけで、モッさんの姿は既に消えていた。


私達のことが疎ましいようだったし、帰って当然かもしれない。ある意味では私も同じ。ガキ(●●)な椎名芙由は嫌い。



「先生、私そろそろ帰るね」

「おお! 椎名、高校頑張れよ!」

「ありがとうございます」


大部屋の一番奥に鎮座していた先生へ歩み寄るまで、周りを見渡す時間は十分にあった。


自分の席へ戻っていた楓。その隣には――私の席だった場所には、以前から楓を狙っているとウワサの子が座っていた。