「お前さ、ほんとめんどくせぇ」

「あなたは終始口悪いですね」


つい反撃してしまったが最後、また夜の静けが帰ってきた。

そして静寂が続く限り、自分のガキっぽさを反省する。


「なんでアイツにちゃんと言わなかったんだ?」

「……え?」

「結局のところ、あの彼氏と別れたくなかったって話だろ。後になって泣き喚くくらいなら、平気なフリしなきゃよかったんじゃねぇの?」


そんな単純な話じゃない。あなたに関係ない。

私がどれも言えずにいると、コートからスマホを出したモッさんは、おもむろに立ち上がった。


「もう9時回ったし、頃合いだろ。これ以上ダラダラしてたら今度は他の奴らと出くわすぞ」


テーブルに放られた白いハンカチを見て、はっと顔を上げる。しかしモッさんは既に公園の出口へと歩き出しており、私はハンカチを掴んで慌てて後を追った。


「あのっ、なんで公園に行ったんですか?」

「は? 泣いてるの、知り合いにバレたくなかったんじゃねぇの?」


……そ、それはそう、だけど。


街灯の下を通るたびに浮き彫りになる背中は、それ以降、焼き鳥屋の前へ戻って来るまで何も言わなかった。




「じゃ、気ぃつけて」

「あ、あの、これっ――」

「必要ないなら捨てれば?」


モッさんの突き放すような言い草に、そーですか、とハンカチへ視線を落とす。


真っ白で、アイロンまでかけられていて……モサモサ頭に似合わなすぎて、キモチワルイ。無愛想なくせに。口悪いくせに。なんにも知らない、知ってるフリが得意なだけのオトナなくせに――。