「ねぇ、萩原と別れたってマジっすか?」


ふいに右耳に寄せられた可愛らしい声に、ドクン、と心臓が跳ねる。


私はすぐにおしぼりを手に取り、素っ気なく視線を目の前の料理へ向けた。


「このタイミングで聞く?」

「よーす見てたの」

「どおりで静かだと思った」

「で? ホントは?」


楓と別れたのは、1ヵ月以上も前のこと。なぜバレたのか。いまさら誤魔化す必要はないか。あれやこれやと考えながら、左隣を盗み見る。


楓はこちらへ背を向けるような体勢で、クラスメイト達と賑やかに喋っていた。

これなら、たぶん聞こえないだろう。


「……うん。まあ、そうだね」

「マジで? なんで? クソ仲良かったじゃん!」

「カンナ声でかい」


私が多少凄んでみても、10年以上“斜向いのご近所さん”をやっていると無意味に等しい。仰々しくため息を吐いたところで、カンナのしかめっ面は変わらなかった。


「……言っとくけど、楓とは今でも普通に仲良いからね。隣に座るくらいだし」

「隣に座ってるからデマかと思った。てかいつ? なんで?」


ただでさえ零れ落ちそうなほどに大きな瞳が見開かれ、迫力を増して迫ってくる。


「ねー、なんでウチに話してくれなかったのさ。なんかヤラれた?」


休みなく投げかけられる疑問。さて、何をどうやって打ち返そうか。


「ちょっと待って。とりあえず何か食べよ?」

「メシより話! 理由を聞かなきゃ納得できない!」


カンナが食い気味に距離を縮めると、淡いオリーブ色のウェーブヘアがふわりと揺れた。飲み物を口にする隙すら与えてくれない幼馴染を相手に、次に繰り出すのは――。