「2Sって……久々聞いたわ」


ダブルスプリング――通称『2S』。

誰が言い出したかは知らないが、いつの間にか浸透していた2人を示す言葉。これを聞けば、自然と高校時代の記憶が蘇る。あまり思い出したくない黒歴史だ。


――――モテモテ、ね。


自身の過去も含め、高校生なんて自制心を持たないエゴイスト集団でしかない。好意を向けられたとて、ただただ面倒なだけ。実際この1年、絆されもしなかった。


作業部屋の定位置へ戻ると、くだらない思考を掻き消すように大きく息を吐く。


手を動かし始めさえすれば、意識は自ずと一点に集中した。




――――よし。


制作が一段落して壁掛け時計を見ると、時刻は6時を回っていた。


休憩室へ移動してコーヒーを入れながら、置きっぱなしだったスマホを確認する。画面に表示されたのは、晴士からの不在着信2件と【18:07】の文字。


「まじか」


たしか、昨日学校を出たのは17時ごろだった。時計を確認した時は朝の6時だと思ったが、どうやら短針は2周していたらしい。


「やっぱ遮光ブラインド外すかなぁ」


時間経過を認識した途端、疲れがどっと押し寄せてくる。

気怠さに対抗するだけの余力を持ち合わせていない今、やるべき事は一つだ。


コンタクトをゴミ箱に捨てて、洗面所で顔を洗う。のそりと頭を上げると、鏡に写った自分は、絵具で汚れたワイシャツを着ていた。


――――シャワー。いや、めんどくさいな。


脱いだシャツを洗濯カゴへ放り込み、髪を束ねていたゴムとメガネを交換して休憩室へと戻る。