飄々と登場し、にこやかに微笑む我らが担任。人払いしてあるという話だったのに、よりにもよって、なぜこの人なのか。


「アハハッ! 全然秘密じゃないよー。ここはウチの兄ちゃんに聞いたんだもん」

「お兄さん……ああ、なるほど。3年の榎本君はお兄さんでしたか」


なんだか居心地が悪い。誰が悪いとかではないから、余計にモヤッとする。


「僕がここでタバコを吸ってるのは秘密にして下さいね」


先生は口元で人指し指を立てると、ズボンの後ろポケットからタバコの箱を取り出した。どうやら、居座るつもりらしい。


「何でわざわざここで吸うんですか?」


皮肉っぽい言い方をしてしまったが、悪意はない。あくまでも査定だ。


一応釘を刺してはいるものの、生徒の前で躊躇いもなくタバコへ火を点ける。あなたのソレは、距離を縮めるための作戦ですか? 素ですか? あなたもやっぱり、教師ですか?


「僕は一応新任ですからね」


穏やかな口調で答えた先生が、風で揺れる黒髪を左耳へ掛け直す。


「ほかの先生達と一緒じゃ、何かと気を遣って息抜きどころじゃないんです。あ、内緒ですよ?」

「ガッテンしょーち! そーだ、春先生コレ食べていーよ」


クロワッサンを勧めるカンナに、先生は笑顔だけを返した。そして気遣いほどの距離を置いてカンナの隣へ、風下のほうへ立った。


口外しないよう念押しするのに、嘘で誤魔化している感じはしない。むしろ、先生の態度があっさりし過ぎているせいか、私達の存在なんて在って無いようなもの、という素振りにすら見える。


一体どういう人物なのか。


朝から様子見を続けているのに、なんだか掴みどころがない。