担任の恋愛事情なんて私達には関係ないし、ましてや興味もない。でも前回の返答を思えば、小手調べとしては十分役に立つだろう。



――自己紹介からの流れで当然のように湧いて出た質問。先生は困ったように眉を下げて小さく笑うと、すぐに表情を引き締めた。


『えーっと、そうですね。基本一つのことに集中すると他は後回しにしてしまいます。今は初めてのクラス担任で日々その事しか頭にないので、……つまりそういう事です。察してください』


私達へ正解を委ねる形で締めくくった先生は、今度は笑顔を作らなかった。


――――さて、今回はどう答えますか?


「んー、タイプですか。難しいですね。外見よりは中身ですかね」

「なかみ?」


無意識のうちに先生の言葉を復唱してしまい、挙げ句、またしても視線がぶつかる。フッと口元を緩めた先生には大人の余裕が見て取れて、私は慌てて配布作業へ戻った。


「ねー先生、中身ってどゆこと?」

「一緒にいてワクワクするとか、刺激を貰えるとか。そういう本質的な部分で惹かれるって事ですかね」

「それじゃ頑張りようがないじゃん!」


抽象的な回答に、カンナが大声で反論しながら項垂れる。


「見た目なんてすぐ変わりますよ? そこばかりだったら、長続きはしません。何かしら軸は必要だと思いますけどね?」


にこやかに説き伏せられたカンナは『うーん』と唸っていたが、私はなぜだかスッと飲み込むことができた。

……不服なのは言わずもがな、だけど。



その後、ポツリポツリと生徒達が登校し始め、先生との早朝交流会は閉幕。協力者が増えてくれたことで、プリント配りも瞬く間に終わった。