不意の名指しに驚き、私は何もない場所で躓いてしまった。半数以上の冊子が腕から零れ落ちるし、無様な姿は見られるし、最悪だ。


「大丈夫ですか?」

「すみません」


散らばった冊子を拾いながら顔を上げる。

そこには、同じ高さまで下りてきていた先生の瞳があった。


「先生がイケメンだからキンチョーしてんだな! ね、芙由!」


せせら笑う声を瞬時に睨みつけると、カンナが戯けた表情で怒りをかわす。


もう、ほんとヤダ。


「ははっ。褒めてもらって有り難いけど、僕としては気軽に話せる関係の方が嬉しいですね。環境が新しくなると、何かと悩みも増えますし」

「それは大丈夫だよ、芙由はクールだけど言うときは言うから。中学の時だってウチが――」

「ねぇカンナ!」


たまらず声を張った。

教師なんかと親しくするつもりはない。内輪ネタを話す気はないし、知られたくもない。


「せっかくだしさ、私達のことより先生の話聞こうよ」

「先生のこと?」


カンナが余計な事をバラす前に、先手を打つ。

なにか適当な話題を。より食いつきそうな話題を。


『先生! 彼女はいるんですか?』


咄嗟に頭を過ぎったのは、初日の挨拶で男子生徒から挙がった定番の質問だった。


「……えっと、好きなタイプ、とか?」

「それ! ウチも聞きたい!」


私の取って付けたような提案に、カンナの視線が勢いよく先生へ移る。