先生が一礼すると、静かだった教室内が拍手で満たされていく。


綺麗にまとめられた自己紹介も、時折見せる笑顔も、物腰柔らかな話し方も、全て満点。一切好感が持てない、という方がおかしい。


――でも、誰だって最初はそうだ。


年齢が近いとか、顔がイイとか、フランクだとか。そんなフィルターのせいで、私達は簡単に騙される――。



「芙由ただいまーっ!」


芙由さん(●●●●)はどんだけ遠くにいるんだよ、と突っ込みたくなるほどの大声に、笑いを堪えて白けた視線を送る。


「ほらやるよー、っと」


プリントの束を両手で抱えていたカンナは、目一杯のつま先立ちでそれを教卓に乗せた。続けざまに入ってきた先生も、やはり大量のプリント……ではなく、2段重ねのダンボールを抱えていた。


「……はぁ」


気合いを入れる代わりに小さなため息を吐き、2人へ歩み寄る。


いつ現れるかわからないイケメンを待つより、眼の前のイケメンで妥協したカンナは正しい。こんな量の配布物を一人で捌こうなんて、控えめに言ってもアホだ。


榎本(エノモト)さんのおかげで助かりました、宿泊研修用の冊子が多くて。椎名さんも、手伝わせてすみません」


左耳へ髪を掛け直しながら、先生が眉を下げて微笑む。

――はいはい、綺麗なお顔ですね。


「……これ、机の上に置いていけばいいですか?」

「お願いします」


会話は最小限でいい。あくまでも私は、カンナに付き合っているだけ。