「堀内、桐島、ちょっといいかな。二人に大事な話があるんだけど……」

 ――図書室で調べ物を始めてから2日後。
 私たちはいつも通り図書室で調べ物に没頭していると、背後から佐神先生に声をかけられた。
 呼ばれたことに驚いたけど、先生が言いたいことはなんとなく察した。

 そして、話の場を移すために第二理科室へ。
 私たちは一番前の席に向かい合わせに座ると、先生は教卓の前に立った。

「先日は話を聞いてやらなくてごめん。教師として間違っていたよ」
「先生……」
「……俺らの話を無視したくせに、いまさらなんだよ」
「桐島くんっっ!!」
「ごめんごめん……。あれからパラレルワールドがやけに気になって考えてたんだ。もし実在するならどんな世界なんだろうって興味が湧いたよ。そしたら、昨日司書からパラレルワールドについて調べ物をしてる生徒がいると聞いてすぐに君たちだと思った。熱心に調べていると聞いて、何か力になってあげたくてね」

 私たちは”先生に気持ちが届いた”と思って、お互い目を合わせてうんと頷く。
 話を聞いてもらえなかった時は絶望的だったけど、また一人協力者が増えると思うだけで心強い。
 一人から二人、そして二人から三人。
 アイデアや情報量が一つでも増えれば、帰る手立ても見つかりやすいと思うし。

 それから私たちはここへ来た時の状況や、今日までの詳細を伝えていくと……。

「話をまとめると、ここがパラレルワールドで、もう一つの世界は左右反転の場所で、君たちはいま帰る手段を探してるということでいいのかな」
「佐神からしたら、俺らがいた世界がパラレルワールドかもしれないけど、自分たちにとっては大切な生まれ故郷なんだ」
「桐島! 先生に向かって呼び捨てはやめなさい」

 佐神先生は、元の世界の先生とは別人のように言いたいことを伝えると、桐島くんは不機嫌な顔で口を尖らせた。

「でも、そういうことなのか。パラレルワールドにますます興味が湧いたよ」
「先生はパラレルワールドについてなにか知ってますか?」
「いや……。実は何も知らない。……ただ、一つだけ宛はある」
「えっ!!」

 私と桐島くんは丸くなった目でお互いを見合う。
 
「確か、知り合いの大学教授がパラレルワールドについて研究していたはず」
「ほほほほ……本当ですか?!」

 思わず身を乗り出すくらいの吉報に胸が弾む。

「あはは。どこまで本当のことを知ってるかわからないからあまり期待しない方がいい。僕自身も聞いた時はまともに受け止めなかったし」
「研究している人の話を聞けるなんて助かるな。有力な情報が得られればいいけど」
「自分たちで調べるのに限界を感じてたくらいだからね。もう無理かなぁ〜って思ってた」
「じゃあ、さっそく今晩さっそく教授に電話してみるよ」
「ありがとうございます」
「……堀内、もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないな」
「うん。諦めなくて良かったぁ〜」
「こらこら、安心するのはまだ早いよ。これからが勝負だからね」

 いっときは本当に帰れないのかなって。
 萌歌と桐島くんと一生この世界で暮らすのかなって。
 もう二度と元の世界の父や友達に会えなくなったらどうしようって思ってた。
 でも、一人一人手を重ねる人が増えて協力しあっていくうちに、自分がしていたことに無駄はなかったんだと思うように……。