――次に目を開けたら、空には無数の星が散らばっていた。
 虫の音のBGMに加え、広い広い夜空を瞳に映し出している。 
 そこで、いつの間にか意識を失っていたことに気づいた。
 指先に感じるぬくもりの先には、瞳を閉じている萌歌の姿が。
 上半身を起こして軽く辺りを見渡してみると、付近の景色は元の世界と同じ。
 校舎の上部に設置されている時計がそれを証明していた。

 無事に戻って来れたことを実感すると、目の奥がじわじわと熱くなっていく。

「萌歌! 起きて。無事に着いたよ」
「ん……ん、んーーっ……」
「私たち元の世界に帰ってきたんだよ。ほら、早く起きて!」

 興奮気味に手をゆすっていると、彼女は目をぱっちりと開けてガバっと飛び起きる。

「えっ、えっ!! ……いま、なんて」
「帰ってこれたの! 元の世界に戻るのに成功したんだよ!」
「ようやく帰って来れたんだ……」
「うん! そうだよ。私たちが生まれ育った故郷へ」

 景色を眺める度に元の世界へ戻ってきたと実感していく。
 校舎の作りも、建物の配置も、ここからの景色も……。
 それが一つ一つ身にしみていく度に感動の渦に巻き込まれていき、鼻頭を赤く染めていった。

「ありがと……」
「えっ」

 俯いてる彼女は長い髪を垂らしたまま言った。

「あたし、向こうにいた時は自分のことで頭がいっぱいだった。もしあんたが一人でこの世界に帰って来てたら、あたしはもう一人のあんたと一生向き合い続けることになったんだよね」
「うん」
「そーゆーことまで考えてなかったから、最初は帰らなくてもいいかな〜って思ってたけど……。きょうだいを続けるなら、やっぱりあんたがいい」
「えっ」
「感謝してる。向こうの世界にいた時も、『一緒に帰ろう』と言って連れ戻してくれたこの瞬間も……」
「萌歌……」
「ありがとう。大好きだよ……」
「ん……。私も大好き」
「あはは、泣いたらメイクが崩れちゃうかもしれない」

 彼女はそう言って床に落ちたままの手鏡を拾う。
 だが、裏のデコレーションを見た途端に目を丸くする。

「あれ? これは……」
「なに、どしたの?」
「あはは、やっぱりなぁ〜と思って。これを見たら帰ってきた実感湧くわ」
「えっ、何が?」

 言ってる意味がわからなくてすかさずそう聞き返すと……、

「萌歌ぁ〜〜っっ! ごめ〜〜ん、戻るのが遅くなって!!」

 校門側から女性の声が聞こえてきたので目を向けると、萌歌のダンスグループのメンバー一人がこっちへ走り寄ってきた。
 彼女は足を止めると、萌歌は腰に手を当てて眉を尖らせる。

「サユ……。酷いよ。みんなしてあたしを倉庫に閉じ込めるなんて。恨みがあるなら言えばいいじゃない。こんな仕打ちをするなんて……」

 萌歌は彼女の姿を見た途端、怒りが再燃してしまったせいか責め口調でそう告げる。
 だが、彼女はきょとんと目を見開くばかり。

「えっ? 倉庫の扉が閉まってたの? ……強風が原因かなぁ」
「しらばっくれないでよ! あんたたちが閉じ込めたんでしょ? 皐月が助けに来てくれなかったらどうするつもりだったのよ」
「……なに言ってるの? 私たちがそんなことする訳ないじゃない。人身事故で電車が止まってた上にあんたに用事があるって言ってたから、ちょっとだけ合格祝いと誕生日祝いをしようってことになって、みんなで倉庫に荷物を置いていたらあんたがマットの上で寝ちゃったんじゃない」

 それを聞いた途端、萌歌の目は丸くなる。

「えっっ……、私がマットの上で寝た?」
「緊張と疲れのせいもあったのかな。起こすのもかわいそうだなぁ〜と思ってみんなで買い物に行ったんだけど、今度は23時を過ぎていたせいか、マナとリイが未成年だからって警察に補導されちゃって大変だったの。だから、ここに来るのが唯一成人の私だけになっちゃったんだけど」
「ちょっと待って……、よくわからない……。話……理解出来ないんだけど」
「つまり、みんなでプチ祝いをしようとして学校を訪れたら、萌歌が倉庫で寝ちゃってて、その間他のみんなで買い出しに行ったら、未成年メンバーが補導されてしまったと?」

 私が二人のまとめ役を買って間に入ると、

「そうそう。市の条例のことを知らなくってさ。23時過ぎの未成年の外出は補導対象だったんだね。萌歌に電話をしても全然繋がらないし、一度ここへ来た時は誰もいなそうだったから、帰ったのかなぁ〜と思って家に行ったらまだ帰ってないって言われて。だから、おばさんと手分けをして探してたんだけど、やっぱりここだとは……。倉庫の扉が閉まってたからてっきり帰ったかと思ってたよ。……ごめんね、来るのが遅くなっちゃって」

 私と萌歌はそれを聞いた途端、目を合わせてプッと笑った。
 確かに佐神先生に聞いた通り、行動パターンやシーンは並行していたけど、まさかその内容がここまで反転しているなんて……。