フィレンツェ

「ジェラート買ってきたわよ」

 店仕舞いをしているウェスタに向かって紙袋を掲げたフローラがにっこりと笑った。

「どうしたの、ジェラートなんて」

「ちょっと食べたくなったから」

「ふ~ん」

 ウェスタが不思議そうな表情になったので紙袋に印刷された店名を指差すと、「あっ、ここって」と笑みが浮かんだ。

「そう、最近話題になってるジェラテリアよ」

「知ってる。若い女の子に大人気だって聞いたことがあるわ。でも、大丈夫? 溶けてない?」

「大丈夫。ドライアイスを入れてくれたから」

「えっ、ドライアイス? それってやばくない? カチンカチンになったらおいしくないわよ」

「うん。だから冷蔵庫にしばらく入れて温度を上げてから食べてくださいって言われた」

「なるほど」

「じゃあ、ちょっと冷蔵庫借りるわね」

 フローラは勝手知ったるウェスタの店舗兼自宅の2階に上がり込んで、ご両親に挨拶をしたあと、ドライアイスを取り出してから紙袋を冷蔵庫に入れた。
 そして、ウェスタの部屋に入って暖房を入れ、24度に設定した。