しかし次の曲が始まると一転して会場が静まり返った。
 誰も知らない曲のようだった。

「彼らのオリジナルだよ。ちょっとChick(チック) Corea(コリア)風だけどね」

 弦が知っているのは『Return to Forever』だけだったが、確かに少し似ていた。
 しかし、最初から最後までインプロヴィゼーションのような演奏なので、客が求めているものとは違っているようだった。
 だから演奏が終わった時の拍手は熱のこもったものではなかった。

「受けなかったね」

 残念というようにアンドレアが両手を広げた。
 とその時、ピアニストがこちらに向かって呼ぶような仕草をした。
 すると、アンドレアが楽器のケースを持ってステージに向かった。
 何事かと思って見つめていると、ステージに上がったアンドレアがサックスを構えた。
 そして、キーボードの音をバックにドラムが叩かれるとベースが入ってきて、アンドレアが吹き始めた。
 すると、すぐに会場のあちこちで声が上がった。有名な曲のようだった。

MAPUTO(マプート)だ」

 後ろの席から男性の声がした。

David(デイヴィッド) Sanborn(サンボーン)だったよね」

Bob(ボブ) James(ジェームス)とのコラボだよ」

 エレピのソロが始まった。
 軽やかで親しみやすいメロディが会場をほんわりと包み込み、サックスによるメインメロディが奏でられるとインプロヴィゼーションが始まった。
 徐々に盛り上げていく構成が素晴らしかった。
 サックスの速吹きに会場が沸いて何度も拍手が送られ、エレピとの掛け合いもスリルがあって何度も歓声が上がった。
 演奏が終わるとさっきまでと同じ観客かと思うほどの拍手と歓声が沸き起こり、中には立ち上がって拍手をする人もいた。
 スタンディングオベーションだ。
 負けじと弦も立ち上がって拍手を送ると、アンドレアははにかんだような笑みを浮かべたが、満更でもなさそうな感じで手を上げた。