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 アルバイト初日から鍛えられた。
 日本のパンを作るために手伝って欲しいと言われたから仕事はそれだけだと思っていたが、そうではなかった。
 パンを作るためのあらゆる工程に携わることを求められたのだ。
 それは完全に修行といえるようなもので、まるで本格的なパン職人を育成するかのようにルチオとアントニオに鍛えられた。
 仕込み、発酵、形成、焼成という基本工程のみならず、原材料や添加物に関すること、ミキサーやホイロやオーブンなどの調理器具に関すること、更に、色々な栄養素の働きや食品衛生的なものまで教え込まれた。

 こんなのが続いたら体が持たない……、

 へとへとになって部屋に戻った弦は不満を天井に吐き出してブツブツと文句を言い続けたが、いつものようにひとしきり文句を言ったあとは日本から送ってもらったパンに関する本を必ず手に取って何度も読み返した。
 するとその度にルチオやアントニオの言葉が蘇ってきて、彼らが言うことに対する理解が深まっていった。

 一口にパンと言っても奥が深いんだよな~、

 弦が独り言ちた時、スマホの呼び出し音が鳴った。
 アンドレアだった。
 出てこないかという誘いだった。