「よく来たね」

 満面に笑みを浮かべたルチオが店の前で待ってくれていただけでなく、温かみのあるハグで包み込んでくれた。
 そして、店舗の2階にある自宅に案内してくれた。

 中に入ると、待ち構えていたアントニオが力強い握手で迎えてくれ、奥さんは控え目なハグで歓迎の意を表してくれた。

 リビングに入ると、ソファに座っている同年代らしき男子の姿が見えたので挨拶しようとして近寄ると、彼は立ち上がって「アンドレアです。よろしく」と手を差し出した。
 大きな手で握る力も強く、体はアントニオより大きかった。

「弦です。弾弦」

 その次を言おうとすると、それを制するようにルチオが口を挟んだ。

「Play the stringsという意味だったよね」

 頷くと、すかさずアンドレアが話を引き取った。

「ヴァイオリン?」

「ううん、ギター」

「へ~、クラシック?」

「そう。でも今はジャズにはまっている」

「ふ~ん」

 ジャズという言葉が刺激を与えたのか、アンドレアの表情が変わった。

「フェイヴァリット・ミュージシャンは?」

「ラリー・カールトンとか、ジム・ホールとか」

「へ~、じゃあ、アランフェス協奏曲は弾ける?」

 頷くと、「僕の部屋へ行こうよ」と腕を取られたが、それをやんわりと断ってアントニオに向き直った。

「お土産を持ってきました」

 紙袋を差し出すと、受け取ったアントニオが興味深そうに中を覗いた。