乗り場には長い列ができていた。
 乗るまでにしばらく時間がかかりそうで、それが苦痛だった。
 父親は憮然としているし、視線を合わせようとしなかった。
 〈居たたまれない〉という言葉がピッタリだと弦は思った。

 しばらくしてやっと順番が来て、父親がタクシーに乗り込んだ。
 しかし弦は乗せてもらえなかった。
 相乗りさせてもらえるとばかり思っていたので信じられなかったが、視線の先には、じゃあ、というように手を上げた父親の横顔があった。
 
 父親を乗せたタクシーが発車するとすぐに次のタクシーがやってきたが、遠ざかるタクシーをボーっと見ていた弦は反応することができなかった。
 すると、横付けしたタクシーの運転手と弦のすぐ後ろに並ぶ人から同時に何か言われた。
 それで我に返った。
 乗車を急かされていた。
 しかし、市内まで60ドル以上かかるタクシーに乗れるわけがなかった。
 バスと地下鉄を乗り継いで帰るしかないのだ。気まずい思いでその場を離れた弦は無料で乗れるエアトレイン乗り場に急いだが、それに乗ってターミナル5のバス停へ着いた時には既に出たあとだった。

 なんで……、

 小さくなっていくバスの後姿を呟きが追いかけたが、それは追いつくこともなく、排気ガスに巻かれてどこかに消えた。