その後もメキメキと腕を上げ、中学2年生で『アルハンブラ宮殿の思い出』を弾きこなすようになると父親は大喜びし、スペイン製の30万円のギターを買ってくれた。
 更に、志望校に合格するとアルハンブラへ連れて行ってくれた。
 それは単なる観光旅行ではなく、弦が持つギターを作った工房への表敬を兼ねていた。
 その工房の名は『Alhambra』
 1965年創業の老舗メーカーで、そのオーナーの前で『アルハンブラ宮殿の思い出』を演奏したことは弦にとって一番の思い出になった。
 
 しかし、クラシックギターへの熱い想いは高校1年生の冬に一気に萎んでしまった。
 友人の家でジム・ホールの『アランフェス協奏曲』を聴いてしまったのだ。
 弦は一瞬にしてノックアウトされ、アルハンブラは宇宙の彼方へ飛んで行ってしまった。
 それでも父親の手前、クラシックギターの練習は続けていたが、心はジャズに占領されていた。
 当然ながらジャズギターが欲しくてたまらなくなったが、親にねだることはできなかった。
 なけなしの貯金を下ろして中古のフルアコ(ボディー内部が完全に空洞になっているエレキギター)を買った。
 ジム・ホールが使っているギブソンもどきだったが、そのギターに『アラン』と名づけて練習に明け暮れた。
 もちろん家ではできない。
 ギターを預けている友人宅へ学校帰りに寄って、アンプを借りて練習した。