しかし、そのご褒美が実現することはなかった。

 フローラが卒業する年に日本を襲った大災害が原因だった。
 東日本大震災。
 そして、福島での原発事故。
 放射線被害を恐れた日本在住のイタリア人が続々と帰国していた。
 そんな中で日本に行くことはできなかった。
 苦境に陥った日本人を励ましたいと願う気持ちは強かったが、断念せざるを得なかった。
 
 憧れの日本が遠ざかっていくような気がして、かなりの間気分が落ち込んだ。
 それでもこの薬局で日本人観光客の応対をするようになって元気を取り戻した。
 日本人観光客の役に立つことは日本を間接的に支援することだと思うようになったからだ。
 それ以来フローラの顔から笑みが消えることはなくなった。