その日も聖トリニータ橋に立って川面を見つめていたが、目に映るものは無だけであり、魚がはねてもその姿は目に入ってこなかった。

 もう何度目だろうか、数えきれないくらいのため息をついた時、突然、風が頬を撫でた。

 それに誘われるように顔を上げるとまた頬を撫で、すぐにそれが強い風に変わった。

 背中を押されるようにふらふらと歩き出すと、いつの間にかヴェッキオ橋に辿り着いていた。

 それを渡って緩い坂を上っていくと大きな建物が見えた。

 見たこともない建物で、宮殿のような威容を誇っていた。