「イタリア人パン職人から直々に教えてもらっただけのことはあるわね」

 予想外の褒め言葉がウェスタから発せられた。
 それは、中種作り、中種発酵、本捏ね、分割、成型、最終発酵、焼成と、昨夜から今朝にかけて行われた一連の作業に対して贈られたものだった。

「ありがとうございます」

 安堵の息を漏らして今までの緊張を解くと、「フローラが来たらびっくりすると思うわ」と予想外のことを言われたので思わずニンマリとしてしまった。
 しかし、すぐに話はパンのことに戻り、「それにしてもあなたの師匠はたいしたものね」と経験が半年弱の弦をここまでにしたルチオとアントニオへの賛辞になった。
 でもそれは最高に嬉しいことだった。師匠が褒められることほど嬉しいことはなかった。