フィレンツェの市街をしばらく走ったあと、狭い路地にある古ぼけた建物の前でサンドロが車を止めた。
 夜の8時を過ぎていたが、まだ明るかった。
 日没まであと30分ほどあるとのことだったが、そんなことはどうでもいいという感じで「旧市街のホテルは高いから、一番安いところにしてもらったんだ」とアンドレアが言い訳をするような口調になった。
 そして「サンドロさんはシングルだけど、俺たちはツインにしたから」とまた言い訳のようなことを言ってから、「狭くてかび臭かっても文句は言うなよ」と付け加えた。

「まあまあ。それよりも早く飯を食いに行こう」

 時計を指差すサンドロに促されるままチェックインを済ませた。
 そして部屋に荷物を放り込んでホテルの前にあるピッツェリアに飛び込むと、幸運にも奥の薄暗いテーブルが空いていたのでなんとか座ることができた。
 サンドロはビールとマリナーラを、アンドレアはコークとカプレーゼを、弦はコークとマルゲリータを頼んだ。