イタリア

        1

 13時間余りの飛行を終えてミラノに着いたのは朝の10時過ぎだった。
 空港にはルチオの親戚が一人で迎えに来ていて、シメオーニ・ボッティと名乗った。
 60歳前後くらいだろうか、がっしりとした体格と精悍な顔つきが印象的で、一般的に言われているナンパ系のイメージとは違っていた。
 彼らは熱い抱擁を交わして久しぶりの再会を喜び合っていたが、すべてイタリア語なので弦には何を話しているのかさっぱりわからなかった。

 彼が運転する大型のSUVでルチオの故郷へ向かった。
 皮張りのシートが高級感を醸し出しており、遮音性の高さも際立っていた。
 そのためロードノイズがほとんど聞こえず、カーオーディオから流れる音楽はまるでコンサートホールで聞いているようだった。
 弦の知らない曲ばかりだったが、うっとりするようなヴァイオリンの調べが車内を包み込んでいた。

 チンジャ・デ・ボッティに到着したのは午後1時を回っていた。
 2時間を超えるドライヴだったが、ルチオもアンドレアも元気いっぱいのようで、久しぶりの里帰りにワクワクしているのが手に取るようにわかった。
 
 親戚の家に到着すると、シメオーニがクラクションを鳴らした。
 すると、10人を超える人たちが玄関からぞろぞろと出てきて、代わる代わるルチオとアンドレアに熱い言葉と抱擁を浴びせた。
 それはいつ終わるともなく続いたが、弦への対応は握手だけだった。