西の方へ向かってしばらく歩いていると、ルチオが右の方を指差した。

「ワシントン記念塔だよ」

 その塔は空に向かってそびえ立っていて、見上げると首が痛くなるような高さだった。
 170メートルほどあるのだという。
 アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンに敬意を表した石の塔で、1848年の独立記念日に着工して、竣工(しゅんこう)したのが36年後の1884年だったという。

「ワシントンで最も高い建造物なんだ。法律でこれより高いものを建てるのを禁止しているからね」

 そこで突然思い出したかのようにルチオが手を打った。

「あ、そうそう、これには日本も関わりがあるんだよ。ペリー提督が持ち帰った伊豆下田の石が埋め込まれているからね」

「ペリー?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまったが、不意に学校で習った歴史のひとコマが蘇ってきた。
 ペリーが黒船で日本にやってきたのは江戸時代だった。
 1853年。
 それは日本の歴史が大きく動いたエポックメイキングな出来事で、その翌年に幕府は『日米和親条約』を結んで開港することになり、開国、倒幕、明治へと繋がっていくのだ。
 徳川幕府が260年間続けてきた鎖国をこじ開けたのがペリーだった。

「日本人がまだちょんまげ(・・・・・)を結っていた時代にアメリカはこんなものを……」

 塔を見上げて大きなため息をついた時、ルチオの重い声が耳に届いた。